江⼾三座の筆頭であった中村座を、現代によみがえらせたいという
十八世中村勘三郎さんの思いから、2000年に浅草に誕生した芝居⼩屋「平成中村座」。
舞台と客席が近く、役者と観客が一体となる特別な空間は、
日本各地や、海外で多くの歌舞伎ファンを魅了してきました。
今年10月には、4年ぶりに誕生の地・浅草でその幕が開きます。
ご当地を舞台にした『助六曲輪初花桜』をはじめとした、見応えのある演目がずらり。
そのなかで女方の大役を勤める中村七之助さんに、本公演の見どころを伺います。
今回は【後編】をお届けします。
初役・戸無瀬を演じることは、大きな喜び
七之助さんにとって、勘九郎さんは「舞台でいちばん安心できる存在」です。
「自分ひとりでは届かなかったレベルまで引き上げてくれる人。名優には自分だけではなく、まわりの役者も高いところへ連れて行く力があるんです。私自身も、互いに高め合える役者でいたいと思っています」
今回の公演では七之助さんも、女方の大役、『仮名手本忠臣蔵九段目 山科閑居』の戸無瀬に初役として挑みます。年ごろの娘を持つ母親を演じるのは、七之助さんにとって初めての経験。物語は、しんしんと雪が降るなか、戸無瀬が白無垢を着た娘の小浪を連れて、かつて塩冶家の城代家老だった大星由良之助の閑居を訪れるところから始まります。
「塩冶家のお家断絶が起きなければ、幸せな家庭を築いていたはずの家族の悲劇です。戸無瀬の娘・小浪は、大星由良之助の息子・力弥の許嫁。でも、事件のために結婚の約束が果たされないままになっていたため、戸無瀬はある覚悟を決めます。戸無瀬は後添えで、小浪は実の子ではありません。だからこそ幸せにしてあげなくては、という秘めた思いがあります。その精神をお客様にお見せできたら」
この九段目は、平成20(2008) 年の平成中村座でも上演され、戸無瀬は父・勘三郎さんが勤めました。今回上演する背景には、七之助さんの背中を押すある出来事があったそうです。
「ある日、兄と演目を相談していて、『助六』と『連獅子』はすぐ決まりました。実は今年11月の歌舞伎座で『仮名手本忠臣蔵』の通し上演があるのですが、そこでは九段目はかからないと聞いて、平成中村座でやるのはどうだろうと私が提案したんです。そうしたら、そのとき、私の鏡台に1匹のハエがとまって。その鏡台は父が使っていたものなのですが、中村屋では祖父(十七世中村勘三郎さん)が亡くなったときから、大事な節目になるとハエがあらわれることがあるんです。私がハエに『お父さん、九段目でいいですか』と聞いたら、そのままじっと動かなかった。『いいってことだね』と受け取りました(笑)」




