メルマガ

年を重ねて似合うもの 60代からの大人の装い 素敵なあの人Web

公開日:

【60代エンタメ】市川團十郎・新之助 インタビュー|「古き良きものの中に新しいものがある」(市川團十郎) 映画『襲名』で見つめ直した歌舞伎の未来、そして次代へ

十三代目市川團十郎白猿と八代目市川新之助の襲名を、コロナ禍を挟む3年余りにわたって記録した映画『襲名』。三池崇史監督が、親子の舞台裏や稽古、家族の姿、そして十一代目、十二代目から続く市川團十郎家の歴史を映像に刻みました。

前編では、「襲名は乗り越えるもの」と語った團十郎さんが、父・十二代目から受け継いだ芸と、新之助さんに伝えていることを伺いました。後編では、映画のクライマックスとなる『勧進帳』、襲名前6歳だった新之助さんがひとりで舞台に立った『外郎売』、そして「傾く(かぶく)」精神や歌舞伎の未来について、おふたりにお話いただきます。

>>>前編はこちら!

映画『襲名』シーン画像 2022年の襲名披露興行で上演された『勧進帳』

2022年の襲名披露興行で上演された『勧進帳』。

十一代目、十二代目、十三代目――三代をつなぐ『勧進帳』

——映画のクライマックスでは、十一代目、十二代目、十三代目の團十郎さんによる『勧進帳』が登場します。三池監督の構成によって、三代の芸が一本につながって見える、とても印象的な場面でした。

市川團十郎(以下、團十郎):あれは三池監督がなさったことです。ああいう形でよかったと思います。

父とパリのオペラ座のガルニエ宮で勤めた『勧進帳』を見て思い出したのは、一緒にジョルジュサンクホテルに泊まり、シャンゼリゼ通りを歩きながら父子で大きな喧嘩をしたこと。

当時、闘病中の父が、「とにかく行きたいんだ。私はオペラ座に行く」と言って、必死で治療をして、上演できるまでに回復をしたのです。忘れ難い記憶を思い出してぐっときました。

——新之助さんは、三代の『勧進帳』をご覧になっていかがでしたか?

市川新之助(以下、新之助):すごいです。あの場面を見て、歌舞伎ってすごいなと実感しました。言葉では表せないです。

市川團十郎さん

28 Pages

俳優が映像で「先輩の芸を見る」ことの意味とは——

——舞台は一期一会ですが、映画は映像として残っていきます。俳優にとって、芸を映像で記録することにはどんな意味があるのでしょうか?

團十郎:25日間公演をして、そのうちの2日間で撮影することに合わせてやっていくというのは、あまり美しくないなと個人的には思っています。
上演中ではなく別の日に、カメラをちゃんと客席に置いて撮影するのが理想的ではないでしょうか。

——過去の名優の映像を見ることは、資料として貴重なのでは?

團十郎:その日のコンディションって、みんな違うのです。資料としてはありがたいですが、映像だけを見て、それをそのまま正解だと思ってはいけないと思います。

先輩がいる以上は、その方からしっかり教わったほうがいい。ちゃんと肉体に落とし込んだところで、映像を見て考えるというのは、ありだと思います。

新之助:僕は映像で残っていると思うと、すごくありがたいです。自分の映像も撮って、後で見返して、「ここを直していこう」とか考えるのは嫌じゃないです。昔の先輩たちの映像を見ていると、すごく勉強になります。

團十郎:練習のための映像が俳優にあるというのは、いい面も悪い面もあります。でも、まずは教わることが大事ですね。

市川新之助さん

38 Pages

6歳でひとり舞台に立った『外郎売』――「あのときだからできた」

——映画の中で、6歳の新之助さんが襲名前に、お父さんとやっていた『外郎売』をひとりで演じる場面が印象に残りました。

新之助:なんであんなことができたんだろうと思います。いまだったら絶対無理です。

——急遽ひとりで舞台に立つことになったのですよね。

團十郎:私が『義経千本桜』の13役をやる『星合世十三團 成田千本桜』の初演の途中、咽頭炎で声が出なくなって休演してしまったのです。

そのとき、いまでは考えられないのですが、この子が「自分ひとりでやる、頑張る」と言って『外郎売』の舞台に立った。

私は病院で体に管が入った状態で、歌舞伎座の状態を把握できない3日間でした。

その3日間、この子がすごく頑張った。あの映像には泣きました。子どもながらに、本能的に危機を感じている様子がわかりますから。

周囲に「なんで今日はこんなに人がいるの?」と問いかけたり、撮影されないように振る舞ったりとか。「無理をさせたな」と思って、涙が止まらなかった。

いま、「あれをできるか」と聞いたら、「やる」とは言わないと思います。あのときだからできた、この子のポテンシャルだったのでしょう。

映画『襲名』シーン画像 2019年、堀越勸玄としてひとりで舞台に立った『外郎売』

2019年、堀越勸玄としてひとりで舞台に立った『外郎売』

48 Pages

「傾(かぶ)く」精神を持ちながら、品格を失わない

——映画では、歌舞伎の始まりを「傾奇者」という言葉からひもとき、「パンクであり、ストリートダンス」とも表現しています。團十郎さん自身の中にも、「傾(かぶ)く」精神はありますか?

團十郎:「傾く」精神は、絶対に失われてはいけないと思います。團十郎家の歴史でいうと、初代から八代目ぐらいまでは時代とともに生きていたのです。

九代目團十郎が「天覧歌舞伎」を実現させて、いい意味でも悪い意味でも、歌舞伎の敷居をぐっと上げました。そこから歌舞伎が今の伝統文化として残っていると言っても過言ではありません。

代々の團十郎は、「傾く」ことを根底にスタートしながら、それを文化、伝統として昇華してきたのだと思います。

——これからの歌舞伎について、どんな未来を思い描いていますか?

團十郎:2026年の現在から、速い速度で世の中が変わっていくでしょう。

その中で大事なのは、日本人にとっての歌舞伎、文化、人の心だと思います。

日本人が持っているものの考え方、佇まい、息遣い、心の在り方、繊細さ、勤勉さ、優しさ、支え合う心、和をもって尊ぶということ。それは歌舞伎に限らず、お華とかお茶とか、落語やお能、狂言とか、そういったものの中にもあります。

そうした日本人の文化に共感できる俳優になっていきたいとは思いますね。

市川團十郎さん、市川新之助さん 映画『襲名』インタビュー

58 Pages

「日本人から、ひとつの提案ができるように」

——海外の方に歌舞伎を見てもらうということについても、これまでとは違う考えをお持ちでしょうか?

團十郎:海外でさせていただく機会をいただけるのであれば、一度だけの打ち上げ花火というのは避けたいです。過去には、シンガポール公演を2年続けたこともありました。でも、結局は打ち上げ花火に近かかったと思います。

若いときにそういう経験をしたからこそ、これからは継続的に海外公演をしていきたいと思っています。

昨今の世界の状況は、私は野蛮だなと思っている。ちょっと理解できない節があり。

そういう中で日本人を考えると、争わない中で我々は豊かに暮らす技術を持っていると思います。

そういう意味で、ひとつの提案が日本人からできるように思うし、それが文化であり、歌舞伎である。

まずは、それを受け入れてくださるように、諸外国にアプローチすることを考え始めようかな、というふうに思っています。

映画『襲名』シーン画像 2019年、海老蔵として手がけた『星合世十三團 成田千本桜』。

2019年、海老蔵として手がけた『星合世十三團 成田千本桜』。

68 Pages

「歌舞伎を知らない人にも、面白さを届けたい」

——新之助さんは、学校のお友達の中には歌舞伎を知らない人もいると話していました。これから、歌舞伎を知らない人たちに、その面白さをどう伝えていきたいですか?

新之助:いまはネットやスマホで楽しい娯楽がたくさんできてしまっているので、古典芸能が好きな人は、自分のまわりにもすごく少ないです。

たぶん、みんなあまり興味がないので、歌舞伎の話はほとんど出てきません。

小学生だったりすると、歌舞伎の存在を知らない人もいると思います。

——そういう人たちに、歌舞伎の面白さを伝える立場として、なにか考えていることはありますか?

新之助:僕も、歌舞伎よりゲームをやっていたほうが面白いと感じてしまう側なので……

それは、まだ考え途中です(笑)。

いろいろとチャレンジして、若いうちにさまざまな経験させていただきたいです。

78 Pages

「受け継ぐ」だけではなく、「次へ渡す」

——この映画が歌舞伎の入り口になるといいですね。

團十郎:團十郎の記録を残す方法を新しく模索しようという思いで考え始め、それが映画という形になりました。

歌舞伎を、より多くの人に知っていただくきっかけを作っていくことが大事です。映画と演劇では、多くの方々に見ていただけるのは、やっぱり映画でしょう。

その中から、歌舞伎に関心を持って、「見てみたい」と思う人たちが、一期一会の世界を味わいに来てくれる。そこに価値があると思っています。

映画『襲名』シーン画像 2022年10月31日、襲名披露興行に先立ち行われた、出演俳優ら総勢104人が舞台に並ぶ伝統「顔寄せ手打式」。

2022年10月31日、襲名披露興行に先立ち行われた、出演俳優ら総勢104人が舞台に並ぶ伝統「顔寄せ手打式」。

88 Pages

三池崇史監督がカメラに収めたのは、十三代目團十郎白猿襲名と八代目新之助初舞台という大きな出来事だけではありません。

父から子へと受け継がれる芸。

十一代目、十二代目、そして十三代目へとつながる『勧進帳』。

新之助さんが、6歳のときにひとりで舞台に立った『外郎売』。

そして、今を生きる團十郎さんが考える「古典の中にある新しさ」。
「襲名」は、名前を受け継ぐことだけを意味するのではないのかもし
れません。

先人たちが残したものを自分の肉体に刻み、その時代に生きる者として受け止め、次の世代へ手渡していく。

「大事なのは、日本人にとっての歌舞伎、文化、人の心」という團十郎さんの言葉には、伝統を守りながら、時代とともに歩んできた團十郎家の歴史と、これからを担う新之助さんへの思いが重なっているようでした。

映画『襲名』は9月25日(金)より全国公開。十三代目市川團十郎白猿と八代目市川新之助の親子が歩んだ、長い襲名までの時間を、ぜひスクリーンで見届けてください。

作品情報

映画『襲名』ポスター

『襲名』
9月25日(金)全国ロードショー
監督:三池崇史
配給: K2 Pictures
©2026 K2 Pictures・3Top

公式HP:https://k2pic.com/film/shumei
公式X:shumei_movie
公式インスタグラム:@shumei_movie

撮影/平林直己(ヒラリングラフィックス)〈インタビュー〉 取材・文/杉村道子

※画像・文章の無断転載はご遠慮ください。

記事をシェア

  • X
  • facebook
  • line

\Googleで素敵なあの人Webをフォロー!/

この記事のキーワード

この記事を書いた人

杉村道子

編集・執筆 杉村道子

カルチャー系を中心にインタビュー記事を執筆しています。趣味は歌舞伎、落語、ミュージル、ストレートプレイに小劇場と、ひたすら雑食舞台鑑賞。年に何本見ているのか、最近は怖くて数えていません。

記事一覧

この記事を書いた人

「年を重ねて似合うもの 60代からの大人の装い」をテーマに、ファッション情報のほか、美容、健康、旅行、グルメなど60代女性に役立つ情報をお届けします!

記事一覧

  • Instagram
  • X
  • facebook
  • youtube

アイコン画像メルマガ