歌舞伎三大名作の一つ、『仮名手本忠臣蔵』。その登場人物たちを、今を生きる俳優はどのように演じるのか。Aプロで塩冶判官、Bプロでおかるを勤める尾上右近さんと、Aプロ・Bプロを通して初役で「五段目」「六段目」の早野勘平を勤める中村隼人さんは、幼い頃から互いを知り、同じ時代を歩んできた二人。今の年齢だから感じられる役への共感があるといいます——
「責任ある立場に内面が追いついていない部分もある年代」——役柄と等身大の30代だから出せるリアリティー
ャケット ¥59,400、パンツ ¥33,000/ともにクルニ(クルニ フラッグシップ ストア)、その他/スタイリスト私物
——塩冶判官や勘平は、右近さん、隼人さんと年齢的にも近いお役ですね。
尾上右近さん(以下、右近) 勘平は20代後半から30歳になるかならないかという年代の役です。塩冶判官のモデルである浅野内匠頭が実際に切腹したのは35歳と言われていて、僕とは1歳違いです。
僕自身、近年は多くの人とご一緒する立場を担わせていただく機会が増えてきました。そこにはやはり責任があり、「仕事としてやるんだ」という認識が生まれてきます。でも、どんな経験も「なんでも来い」と受け止められるほどには成熟はしていないと思います。
責任ある立場に内面が追いついていない部分もある年代であり、その際どさが、判官という人物のリアリティーにつながると思うんです。
塩冶判官は、五万三千石の領地を持つ大名です。家を背負う主として、その役目を懸命に果たそうとしていますが、それが高師直のパワハラによって崩されてしまう。
高師直が、妻の顔世御前に横恋慕しているから、朝廷の饗応役という重要な役目に必要な作法を教えてもらえない。自分に任せてもらえず、酒臭いとまで因縁をつけられる。そういう理不尽に正直に反応してしまう。
なにがあっても仕事を優先できる人なら、「そうですね、おっしゃるとおりです」「作法をまた教えていただけないでしょうか」と、淡々と受け流せばいい。でも、判官はそうはできない。そこが35歳という年齢の姿なのではないかと思います。
逆に言えば、男性は経験を重ねることで、そうした正直な気持ちを押し殺せるようになっていくのかもしれません。
歌舞伎独特の宿命でもありますが、俳優は経験を積むほど、年齢を重ねても若い役を演じるのがうまくなっていきます。でも、僕たちがいまこのお役を勤めるからには、役と同じ年代だからこそ表現できるリアリティーで勝負したいですね。
三段目の塩冶判官(尾上右近さん)の撮り下ろしスチール写真。納戸色(なんどいろ)と呼ばれる緑みがかった青色の着物に、菱小紋の長裃。
中村隼人さん(以下、隼人) 歌舞伎では、10代、20代の役を本当にその年代の俳優が演じるとなると、なかなか難しいところがあります。ただ、未熟なりにも経験を積ませていただいてきた30代の俳優という立場で考えると、30代の役には、役者自身が持っているものと役柄がリンクする部分が必ずあると思うんです。
僕はうまく演じようとは、まったく考えていません。等身大で、生々しくてもいいので、勘平の気持ちをお客様に届けたい。そのうえで、教えていただいた技術や型をしっかりと自分のなかに落とし込んでいく。それを今回の目標にしています。
この年齢だからこそできることがあると思いますし、いまの自分だから表現できる勘平を勤めたいです。
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