日本でも新刊が続々と発売され、注目を集めている韓国の女性作家による、韓国の女性を描いた文学作品。その背景を「男性優位の日常や社会に対して声を上げた、幅広い世代の作品が、国を超えて女性読者をエンパワーメントしている」と、韓日翻訳者・小山内園子さんは語ります。
家族や家庭を日々ケアするために心を尽くし、そのことに、多くの時間を過ごしてきた女性たちが、ひとりの「私」として、自分を見つめるきっかけとなる文学とは?
小山内さんにそうした作品の魅力の在あり処か と、いまだからおすすめの選書を伺いました。【後編】
「どうして日本にないの?」その驚きから翻訳の仕事が始まった
小山内さんは、実は23年のキャリアをもつ社会福祉士でもあります。2007年、その仕事で訪れた韓国ですすめられた小説との出合いが、小山内さんを翻訳の道へと誘いました。
「海外研修で1か月間ほど韓国に滞在しました。当時、私はDVの被害を受けた女性たちの相談を専門にしていましたので、韓国の女性団体が運営しているDVシェルターを訪れたのです。このジャンルは、日本よりも韓国のほうが法制化が早く、法改正も迅速ですね。通訳さんに同行してもらい、被害者の女性たちが、どんなことを思っているかを教えていただきました。
そのとき、そこにいた多くの女性たちが、女性作家の小説を読んでいたんです。被害者の方だけでなく、そのシェルターで働いている人たちもです。そして、『韓国の女性を知るなら、これがいいわよ』とすすめられる本が、どれもこれも本当に面白くて衝撃でした。実は、韓国ドラマファンだった私は趣味で韓国語を学んでいましたが、小説はまったく読んだことがなくて……。
『こんなに面白い作品がなぜ日本で出版されないんだろう』という思いに駆られたんです」小山内さんは、翻訳を仕事として意識し始めました。
世代を超えて語られる女性たちの過去とこれからの人生
「翻訳を手がけたいと思っても、社会福祉士を続けながら長期の語学留学は難しく、日本で学びつつ、韓国の延世大学・語学堂の短期コースに通いました」やがて、自分で訳したい作品を出版社に持ち込むようになった小山内さん。最初は思うように話は進みませんでしたが、転機となったのは翻訳者、すんみさん(※1)との出会いでした。
「彼女から『私たちにはことばが必要だ』(イ・ミンギョン著)というフェミニズムのとても面白い本があるから共訳しないかという提案を受けました。当時の私には“夢みたいな話”でしたが、それが現実になったんです」
すんみさんにこの本の翻訳を依頼したのは、女性がひとりで営む出版社・タバブックス。「フェミニズムのとても面白い本」の翻訳版は、2018年に刊行されました。
「同じ年に、世界32の国と地域で翻訳されている『82年生まれ、キム・ジヨン』(※2)が日本でもベストセラーになり、そのころから潮目が変わりました。韓国の女性作家の作品を、格段に紹介しやすくなったんです」
現在、次々と韓国女性を描いた作品が翻訳されているのは、それだけ韓国で豊かな作品の系譜が紡がれているということ。
「『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ヒットした後、韓国の40代、50代の女性からは『私たちの本がない』という嘆きを聞きました。若い人はフェミニズムを学び、これからの結婚や妊娠・出産について考えられるが、私たちはどうすればいいんだ、と。すると、そうした声に応えるように幅広い年代の女性を描く物語が創作され始ました。
いま、その作品群から、世代を超えて女性の生き方についての『過去の答え合わせ』『未来の答え探し』ができるようになってきています。『誰も取り残さない』というフェミニズムの本質が果たした役割と言えるのでは、そんなふうにも感じられますね」
※ 1) 翻訳家。早稲田大学文化構想学部卒業、同大学大学院文学研究科修士課程修了。主な訳書に、チェ・ジニョン『ディア・マイ・シスター』(亜紀書房)、ウン・ソホル他『5 番レーン』(鈴木出版)など。
※2) 韓国で100 万部突破を記録した大ベストセラー。女性が人生で出合う困難、差別を描き、絶大な共感から社会現象を巻き起こした。
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