「稽古場は大好きな神聖な場所です」
小瀧さんが楽しみにしているのは、2021年の舞台『検察側の証人』以来となる、小川絵梨子さんの演出を受けることです。25歳のとき、前作で小川さんから受け取った言葉は、小瀧さんの芝居の基本になっています。
「本番はかなり緊張するほうですが、絵梨子さんには『舞台に出ちゃったら全部を手放して』と言われました。『これだけ稽古をやってきたんだから台詞なんか間違ったっていい。役で生きていれば、それでいい』と。それを聞いて、すごく気持ちが楽になりました」
さらに小川さんから教わったことを尋ねると、「台詞は相手へのプレゼントだから、ちゃんと渡してあげることです」と小瀧さんは、すっと手を差し出しました。こちらが思わず「はい」と返事をすると、小瀧さんは笑いながら続けて、
「そう。ちゃんと届くように伝えないと、相手もいまのような『はい』という返事が自然と出てこない。肝心なのは、常に交流していることなんです。演劇においては、ボールを摑んで握り直して投げるキャッチボールのような普段の会話では遅いこともあります。卓球のラリーに近い感覚でしょうか。『ノーリアクション・イズ・リアクション』といって、あえて感情や動作を表に出さないこともリアクションのひとつです。絵梨子さんには、そういったことをたくさん教えてもらいました。今回は、この5年間で僕が積み重ねてきたものがどれぐらいあったのか、先生に見てもらうような感覚もありますね」
台本の膨大な台詞量と情報量を前に、「いまからかなり焦っています(笑)」という一方で、稽古場に立つことへの期待は膨らんでいるようです。
「僕は稽古場が好きなんです。俳優がそれぞれ考えてきたものを出し合って、最後の最後まで発見がある。すごく神聖な場所なんですよね。自分に対する使命感もありますけど、とても有意義で、成長につながる時間を過ごせると思っています。皆さんと一丸となって、『ロックンロール』に食らいついていったら、ものすごく説得力のある作品になると思います」
共演する俳優の皆さんとの出会いにも、演劇を続けてきたからこその喜びがあります。
「お互いの舞台を観に行くこともありますし、再共演の方もいます。僕が舞台を始めたころに比べると、少しずつ自分の居場所ができてきたような気がしていて、演劇を続けてきた証しなのかなと思うと、それもすごく嬉しいことですね」
8月下旬にはチェコを訪れ、プラハ城や国民劇場、カレル橋などを「足がパンパンになるまで巡った」という小瀧さん。チェコビールや料理も楽しんだそうです。
「そのときの写真を稽古場に貼るかもしれません。劇中には、歴史的な出来事として『プラハの春』や『ビロード革命』など、教科書で見たことがある言葉も出てきます。平等や自由について、登場人物たちが、それぞれの正義や主義を抱えながら生きていく物語です。どちらが正しくて、どちらが間違っている、という話でもないと思うんです。人は同じことを繰り返すものだから、描かれているのは少し前の時代でも、そこにある感覚は、いまとそんなに変わらないと思います」
劇中では、さまざまな時代のロックの名曲が登場するのも楽しみにしたいところです。
「ミュージカルではありませんが、音楽とともに進んでいく物語です。そして、人と人との会話の緻密さや奥深さも、ぜひ体感していただきたいです。激動の時代のなかで、それぞれがなにを抱え、なにを信じて生きたのか。僕たちもワンチームになって、その20年という時間をしっかりと舞台上に立ち上げたいと思っています」

Information
『ロックンロール』
【あらすじ】1968年、ケンブリッジ大学の留学生ヤンは愛するロックンロールと母親を守るため、ソ連軍の侵攻が激化する祖国チェコスロバキアへの帰国を決意する。愛するレコードを抱えて帰国したヤンを待ち受けていたのは、秘密警察の審問官による取り調べだった——
【兵庫公演】2026年11月6日(金)~8日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【東京公演】2026年11月13日(金)~12月6日(日) 東京建物 ぴあシアター
[原作]トム・ストッパード
[演出]小川絵梨子
[翻訳]小田島創志
[出演]小瀧 望 村川絵梨 大鶴佐助 上口耕平 西川大貴 浅野令子 斎藤瑠希 松田佳央理 伊礼姫奈 石川新太 那須佐代子・吉原光夫
Profile
こたきのぞむ/1996年7月30日生まれ、大阪府出身。2014年のCDデビュー以降、音楽活動と並行してタレント、俳優として幅広く活躍。2020年、主演舞台『エレファント・マン』にて第28回読売演劇大賞杉村春子賞・優秀男優賞を受賞。主な出演作に【舞台】『うま–馬に乗ってこの世の外へ–』『梨泰院クラス』『検察側の証人』【ドラマ】『未来のムスコ』『小さい頃は、神様がいて』など。
ヘア&メイク/佐々木麻里子 スタイリング/村田友哉(SMB International) 撮影/川村恵理 構成・文/杉村道子
※素敵なあの人2026年12月号「小瀧望さんが挑む新境地、舞台『ロックンロール』が開く 俳優としての次なる扉」より
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売を終了している場合があります。
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