これまでのシニア層とはセンスも価値観も大きく異なるいまの60代。“新しい大人世代”としてどうありたいか、日々修行中のイラストレーター植草桂子さんのエッセイ。
今回は「ながら磨きは卒業!」のお話です。
湯船に浸かって歯磨きをする。歯ブラシを動かしながらぼーっと考え事をするこの時間が好きだ。ところがお風呂から上がって舌で歯垢を確認すると、ちゃんと磨ききれていないことに気づく。そして洗面台でまた歯磨きをし直すという日常。
「自分の歯を1本でも多く残す」。
若いときにはピンと来なかったこの意味が、いまは痛いほどわかる。すでにインプラントは2本入っているし、インプラントができない箇所には入れ歯を作り、就寝用にはマウスピースが必須というシニアになってしまった。
94歳の母は全部自分の歯でいまもかたいお煎餅が食べられる。なんで似なかったのかな。虫歯菌などの口腔内の環境は4歳までに決まると聞くが、確かに幼いころ、総入れ歯の祖母によくおやつをもらっていたっけ。私はせめていまの状態を維持したい。歯科医療にお金ばかりかかる老後は嫌。なんと言っても総入れ歯だけは絶対避けたいし。
3ヶ月に一度、歯科医の定期チェックがある。「よく磨けてますね」という言葉に安心したいので、先述したように夜の歯磨きは磨き直しもする。でもこの年になってやっと思い立った。ながら磨きをやめて、毎食後、真剣に歯のお掃除をすべきだ。日課にするには多少気が重くなるが、その代わり部屋のお掃除をちょっとサボったっていいじゃないか。それで病気にはならないし。この先、歯のお掃除をサボるほうが万病の元だ。
人生100年時代って、いいような悪いような。これからは家の掃除より自分のお掃除に愛と時間を使ったほうが、健康で楽しく生きられそうだ。
イラスト・文/植草桂子
※素敵なあの人2026年11月号「植草桂子の気分だけでも大人修行 vol.37」より
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