取材対象は男女・有名無名を問いません。
まだ皆が知らないことを紹介したいんです
「私の教科書のようにさえ感じる」と岡戸さんが語るのは『開高健全ノンフィクション』全5巻(文藝春秋)。世界中の紛争地域で拾い集めた貴重なエピソードが語られた、「足で考え、耳で書く」など、開高健さんの徹底した現場主義は、岡戸さん自身が仕事をしていくうえでの道標であった、とも。
もし有名な人であれば、知られていないような面を引きだす、というのが岡戸さんの編集方針。新聞の小さな記事がきっかけとなり、『この人について実際に会ってもっと話を聞きたい」とアプローチしたこともあるそうです。
「創刊当初は、どの方にも『人生の終い方』について伺っていました。でも、自分の人生に満足して感謝して暮らしているような方は、皆さんほとんど「なるようにしかならない、その日が来たら受け入れるだけ」と言われるんです。取材を重ねるうちにそういう答えの方が多いことに気がつき、次第に『この質問、必要かな?』と思うようになりました」
創刊から5号目まで、1年にほぼ1冊のペースで刊行するうちに、岡戸さんの心を特に動かしたのは80代、90代の方たちとの出会いだったといいます。
「戦争、戦争時代の前後を知ってる人たちの話は価値がある、人間が違うと思いました。語ってくださる話から浮き彫りになる人生の説得力が違うんですよ。恵まれた家庭のお嬢さんで戦時中でもそんなに苦労したとは思えない方でも、その時代を生きてこられたことで、始末する、覚悟するという潔い生き方を、90代になったいまも保ち続けていらっしゃる。厳しい時代を体験した人間の重みを感じます」
打ち合わせ・取材に欠かせないノートには、罫線にそってびっしりと、その内容が書き込まれている。筆記具はステッドラーのシャープペン、芯は書き味が心地よい0.7mm のB を愛用。
お話を聞いた方
岡戸 絹枝(おかど きぬえ)さん
『つるとはな』編集長。1955 年埼玉県生まれ。立教大学文学部卒業。1981 年マガジンハウス入社。『週刊平凡』『Hanako』『 Olive 』などの編集に携わり、1998 年から『Olive』編集長。2002 年には『ku:nel』を創刊し、編集長。2010年マガジンハウス退社。2014年『つるとはな』を創刊。
撮影/久家靖秀 構成・文/杉村道子
※素敵なあの人2025年11月号「『ページをめくるたびに、心に響く言葉と出合う つるとはな ミニ?』ができるまで」より
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売を終了している場合があります。
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください。
- 1
- 2