『デスノート THE MUSICAL』『生きる』など、国内だけでなく世界から愛されている漫画や小説からミュージカルを立ち上げ、海外での公演も果たしてきたホリプロ公演事業部。これまでにも、多彩なテーマで作品を手がけてきたプロデューサー井川荃芬さんに、日本発のオリジナルミュージカル上演にかける思いを伺います。
届いた脚本と歌を先輩プロデューサーとふたりで読み合わせた初めてのミュージカル
迫力満点に劇場をフライングする演出が一世を風靡した、ミュージカル『ピーター・パン』を家族と観劇された方も多いのではないでしょうか? 夏休みの定番ともなった英国生まれのこのミュージカルの日本初演は1981年、初代ピーター・パンは榊原郁恵さんでした。
「この作品から公演事業部はスタートしました。それから約半世紀、演出家である故・蜷川幸雄さんとの出会いから生まれたシェイクスピア全作品上演や日本の俳優による海外公演、ディズニーのミュージカル『メリー・ポピンズ』を手がけるなど、積み重ねた歴史と経験は私たちの土台であり財産です」
そう語る井川さんは、舞台制作に携わって10年目。
「新入社員で入社後、主軸事業のマネージメント部に配属になりました。私はそれから6年半後、いつか演劇に携りたいという入社当時からの思いが叶って公演事業部に異動しました。その最初の作品が『デスノート THE MUSICAL』(以下、『デスノート』)。先輩の梶山裕三プロデューサーが『新しい作品として、自分たちでオリジナルミュージカルを作りたい』と立ち上げた企画でした。これがホリプロの、初めてのオリジナルミュージカルだったんです」
演出は元・新国立劇場芸術監督であり、日本を代表する演出家・栗山民也さん。作曲は世界で長年愛されている『ジキル&ハイド』『ボニー&クライド』のブロードウェイの巨匠、フランク・ワイルドホーンさん。
「私はアシスタントプロデューサーとして経験ゼロからの参加でした。上がってきた脚本の第1稿のセリフと音楽を梶山さんが男性パート、女性パートを私に振り分け全編通した経験は忘れられません。黙読するだけでなく実際に声に出してみると“いまある脚本の全体像がよりクリアに見えてくる”ことがわかるんです。手探りでしたが、オリジナルを作る面白さと必要なプロセスを学んだ演目でした」
井川さんは、栗山民也さんの演出を目の当たりにした経験が、現在でもプロデュースの核になっているそうです。
「栗山さんは演劇として作品に落とし込むテーマを常に明確にされます。『デスノート』でいえば『正義とはなにか』という問い。原作が漫画であるとか、小説であることは関係なく『時代を超えた普遍的な命題を“演劇”でいかに届けるか』という作品作りを学びました。テーマを明確にする姿勢は、弊社の上演作品の特徴でもあると思います」
『デスノート THE MUSICAL』は原作ファンや演劇界からも高い評価を得て大ヒット。海外各国からも上演オファーを受け、ホリプロ初の「海外ライセンス作品(※)」となりました。韓国では日本と同様に2015年から上演を開始、すでに再演を重ねる人気作品に。2023年にはミュージカルの聖地とも称される英国、ウエストエンドでコンサート版の上演を行い現地でも好評を博しました。日本でも今年の秋、初演から周年という記念すべき年の公演が発表されています。
※演劇作品にはオリジナルの制作者に著作権(=ライセンス)がある。それを他者が上演するには著作権者の許可が必要であり、多くの場合は使用料も支払われる。海外での上演を許可する場合はライセンスを輸出することとなり、「海外ライセンス作品」と呼ばれる。