60代の素敵世代におすすめなのが、女性劇作家の作品。心に響く作品が多く、その中で道標となる物語に出合うと心が励まされるはず。「そのひとつとして戯曲があります」と語るのは演劇と文学を研究する米谷郁子先生。特に、素敵世代にぴったりなのが同時代を生きてきた日本の女性劇作家たちの作品。それは「女性が胸に抱くさまざまな思いを、作品が丁寧にすくい取ってくれていると感じられるから」。最新の上演情報もお届けします!
それぞれの世代に生まれてくる、それぞれにふさわしい物語。
歴史や社会を女性の視点から問い直す
「1980年代から現在まで、幅広い題材で女性の演劇を創作してきた劇作家として、永井愛さんをあげたいと思います。たとえば2019年に上演された『私たちは何も知らない』は、平塚らいてうをはじめとする『青鞜』編集部員である若い女性たちの奮闘と躍動の日々を描いた作品。"元始、女性は太陽であった"という青鞜発刊の辞をラップにのせて幕が開き、登場人物は現代の服装をしていました。100年以上前のできごとが、現代と地続きの物語として舞台にあらわれたのです。樋口一葉の作家としての自立を描いた『書く女』もおすすめ。『パートタイマー・秋子』など現代社会への批判が込められた喜劇もあり、戯曲も数多く出版されています」(米谷郁子先生※以下()内同)
さらに若い世代では、てがみ座の長田育恵さんも歴史上の女性に焦点をあてた作品を描いているひとり。2016年に初演、2020年に再演された人気作『燦々』は鬼才の絵師・葛飾北斎の三女お栄の、絵師としての人生が熱い思いとともに鮮烈に描かれています。
「長田さんの『蜜柑とユウウツ―茨木のり子異聞―』は、詩人の茨木のり子さんの作品をめぐる戯曲。"蜜柑の樹"が人物として登場するなど、不思議な味わいの作品です」
最近、米谷先生が注目した作品は、2025年1月に上演された渡辺えりさんの『鯨よ!私の手に乗れ』。
「渡辺さん自身のご家族のこれまでや介護をめぐって生まれた作品だと聞いています。それぞれの時代を生きた世代それぞれに必要な物語が、かならず創作されるものです。年前、女性劇作家たちの視線の先には世紀があったはず。その延長線に、いま作り出されている作品があります。そして、それは次の世代に受け継がれていくでしょう。女性劇作家たちの作品に共通しているのは、物語のラストに描かれる"彼方への眼差し"であるとも言われます。これからも、ここではないどこかを追い求める作品が生まれ続けていくのではないでしょうか」
●本文中では戯曲を入手しやすい作品を中心に取り上げました。