数多くの俳優やアーティストを撮影してきた中川氏が、憧れのあの人やこの人から、トークと写真で本当の姿を引き出す「まことのはなし」。
今回のゲストは、華やかなファッションと存在感で魅了する俳優・文筆家の冨士眞奈美さんです。
向いてないと思っていた俳優業。でもだんだん楽しくなっちゃって
中川さん(以下敬称略) 冨士さんのお姿は『おくさまは18歳』など石立鉄男さんのドラマシリーズで拝見していましたが、両親が大ファンなので、今日の撮影は思いきり自慢したいと思います。
冨士さん (以下敬称略)嬉しいです。
中川 この企画では皆さんに必ず白シャツを着ていただくんです。冨士さんは白シャツにどんなイメージがありますか?
冨士 白シャツは着ないの。制服みたいだし、特別な感じがして。凄くシンプルだから、着ている人の存在がそのまま出てしまうようで難しいのよね。
中川 わかります。今回の衣装は〝カラフルに、楽しく〟をコンセプトにしてみたのですが、白シャツのコーデを含め、こういうスタイルが似合う俳優さんが日本にいらっしゃるのはすごく嬉しいです。
冨士 アクセサリーは派手なものを身につけていましたが、今回のヘアとメイクはいつも使わない、鮮やかな色だから「えーっ!」ってびっくりしたの。でも結構楽しいものね。
中川 若いころから華やかなおしゃれを楽しんでいらしたんじゃないですか?
冨士 全然。だってNHKの専属俳優時代は、電話もお風呂もない部屋でやっと暮らしていたから。『週刊朝日』の「表紙コンクール」で画家の小磯良平先生が私を描いてくださったときも、本当にきた切り雀。
そもそも記者とか編集者になりたかったし、俳優は向いていないからやめようと思っていたんです。20歳で資生堂のモデルになったときに社長さんに頼み込んで、広報誌「花椿」の記者になることがほぼ決まっていたのね。
でもそのころ父が亡くなって。私は6人姉弟妹の3番目で、まだ幼い弟妹がいたから、生活のためには俳優をやるしかなかった。だって収入が一桁違うんだから。
それが『細うで繁盛記』のときに現場が楽しくなってきちゃったのよ。
中川 老舗旅館が舞台の大ヒットドラマですね。主人公の新珠三千代さん演じるお嫁さんをいじめる旅館の娘役でした。
「前髪ありの髪形も衣装もメイクもすべてが新鮮! 楽しいわね」(冨士さん)
冨士眞奈美さん/俳優、文筆家、俳人。
ふじ まなみ/1938年静岡県生まれ。1956年にNHKドラマの主演に抜擢されデビュー。大ヒットドラマ『細うで繁盛記』の意地悪な小姑役が当たり役となり、石立鉄男主演のコメディシリーズで人気俳優に。1974年以降は文筆業に活動の幅を広げ、エッセイ、小説、句集などを数多く執筆。吉行和子、故・岸田今日子など芸能界をはじめ、文壇での幅広い交友も知られる。2019年に公開された『ばあばは、だいじょうぶ』で久々のスクリーン復帰。
撮影・インタビュー/中川真人〔CUBISM〕 スタイリスト/間山雄紀〔M0〕 ヘア&メイク/冨沢ノボル〔CUBE〕 文/渥美志保
※素敵なあの人2024年9月号「フォトグラファー中川真人のまことのはなしVOL. 7」より
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