これまでのシニア層とはセンスも価値観も大きく異なるいまの60代。“新しい大人世代”としてどうありたいか、日々修行中のイラストレーター植草桂子さんのエッセイ。今回は「クロッキー会」のお話です。
イラストレーター仲間の友人がクロッキー会に誘ってくれた。何十年ぶりだろう、クロッキーなんて。大学を卒業して以来かもしれない。
クロッキーとは短時間で被写体の特徴を簡略化して描くもの。緻密に立体の陰影を描き込むデッサンとは違って、いかに短時間で形を捉えるかの練習みたいなもの。一般的にはポーズをとったモデルさんを10分程度で描くことが多いのだが、この日のクロッキー会は1ポーズを1分で120ポーズ描くという荒行みたいな回。
平日の昼間だし会場は似たような年齢層が多い。ジジババ絵画愛好会って感じかな。ま、私も久しぶりだしウォーミングアップ程度に描ければいいやと臨んでみたら、まったくもって甘かった。時間が短過ぎて全身を描くことができない。紙と鉛筆を持つだけで終わっちゃいそうだ。ところが周りを見渡すとみんな伸びやかな線で全体を捉えている。私はボディを描くのが精一杯。手も足も出ないというのは、まさにこういうことを言うのだわ。
会が終了するころにはヘトヘトになったが、気分が高揚していた。もっと描きたい、もっと上手になりたいと思っているのに気づいた。「まだできる」そう思った。それはまだ伸び代があるってことじゃないの。終わった後、友人宅のタワーマンションで夕焼けを見ながらいただいたのは高級シャンパンだったけど、「また描きたいね!」と学生のように自分たちの向上心を刺激し合った。
イラスト・文/植草桂子
※素敵なあの人2025年2月号「植草桂子の気分だけでも大人修行 vol.16」より
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