いま韓国創作ミュージカルは、世界中で注目を集めています。日本の劇場でも、話題の作品が次々に上演。
この春に幕を開けるのは、韓国でも大ヒットしたミュージカル『破果 パグァ』。
本作の主役である女性暗殺者に復讐を誓い、危険なゲームを仕掛ける青年を演じるのは、韓国発の名作ミュージカルに数多く出演されている浦井健治さん。浦井さんに、クライムノワールを原作とするこの作品の面白さや見どころ、そして、日本と韓国の舞台をつなぐ思いを伺ったインタビュー、前後編の後編をお届けします。
「韓国の作品を演じて学んだこと、そのひとつは“ちゃんと伝える”大切さです」
作品にあらわれる国民性 その違いと乗り越え方
これまで、韓国作品を上演するために、日本のクリエイティブチームやキャストはさまざまな工夫をしてきたそうです。
「発声の点では、ハングルは英語のように音の立ち上がりから強く発するので、ミュージカルには適しているんですよね。なので、日本語に置き換えるときには、曲にエネルギーを注ぎ込み、オリジナル作品の持つメッセージを届けることを意識します。日本語とハングル、どちらのよさもありますが、日本語は、情緒や心の機微を表現するのに向いているように思います」
浦井さんはそのキャリアのなかで日本と韓国の、ある表現の違いにも気がついたといいます。
「日本人は人生の大切な局面で、あえて気持ちを直接伝えないかわりに『伝わってるかな?』と問うようなコミュニケーションが、思いやりとして捉えられたりしますよね。その点、韓国は『ち
ゃんと伝える』ことを大切にする。稽古場でそれを役として体現するうちに『伝える』大切さを僕も学び、その意味が理解できたように感じました」
同時代を生きる俳優が、セリフに実感を持って演じること。それは、観客が古今東西の戯曲に共感して楽しむことができる鍵となるのかもしれません。
「『演劇は時代を映す鏡だ』とは、シェイクスピア『ハムレット』のセリフ。また、演出家の栗山民也さんは『演劇は時代を再生する装置だ』とおっしゃっています。2時間から3時間の上演時間のなかで、ある時代の戦争や革命といった歴史を知ることができるのも演劇。ときに教科書や研究書よりも、強く伝える力があるように思います」
「イ・ジナさんは『破果』が自分の手から離れて、日本で今回上演されることをとても誇りに思ってくださっていると感じています」と浦井さん。
劇場で観客と一緒に作っていくのが演劇
俳優としての自分の土台は、「稽古場にある」と浦井さん。
「例えば、大学などで舞台芸術を指導している方々が、稽古場では演出家・ボイストレーナーであり、作品を観客に届けるプロフェッショナルとして提案や試行錯誤を重ねています。僕にとっては、韓国の大学路のような場所です。そこで第一線の方々から学べている豊かさ。また、鹿賀丈史さんや市村正親さんのような先輩方は第一声を発するだけで、もしくは現れるだけで、その人にしか出せない世界観で場を支配してしまう。稽古場で、そうした境地に立っている先輩方から得たエネルギーや時間を、自分は空気のような感覚で身にまとっている気さえしています。ただ、これは僕ひとりのものではなく、誰もが受け取るべきものだと思うんです」
いま、日本の「2.5次元」作品は国内だけでなく世界各国で大人気。そうした舞台で経験を積んだ若手俳優たちが、最近はミュージカルにも次々と挑戦しています。
「時代の転換期なのかもしれません。日本の漫画やアニメが、エンターテイメントとして世界に誇るコンテンツになっているからこそ、これまでの稽古場で培われてきたミュージカル界の豊かな財産を継続できたらいいですね。歌舞伎界に代々受け継がれてきた芸があるように」
その稽古場で作り上げられた作品は、観客がいる劇場で演じられることで作品として完成し、磨き上げられていきます。上演そのものを形として残しておくことはできませんが、観劇によって刻まれた記憶は、その日その席で観た人だけのもの。
「『素敵なあの人』を拝見して、ファッションや美容だけでなく、観劇にも長けている方が多いのではないかと感じました。日本と韓国で盛り上がっているミュージカルの〝いま〟を観ていただけたら本当に嬉しいです」




