【古典の様式美と劇団☆新感線の醍醐味が融合】
シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼』
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2024年から2025年にかけて大当たりを取った『歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼』が新春から早くもシネマ歌舞伎に。全国公開に先駆けて、主人公ライ(松本幸四郎/尾上松也 Wキャスト)と対峙するシュテン役を演じた市川染五郎さんに、その見どころを伺いました。
子どものころから、この作品とライが大好きだったという染五郎さんに、作品に寄せる思いも存分に語っていただきます。
「シェイクスピア劇が底にある普遍的な人間の葛藤を描いている作品です」
「18 年前の上演では、シュテンを真木よう子さんが演じられていて、女性のリーダーとして『男性には決して負けない』という激しさが、怖さや強さの秘密なのだと思っていました。自分のシュテンは、その点が若いリーダーの葛藤として置き換えられています。今回の舞台上演は2024 年の11 月に東京の新橋演舞場で初日を迎え、2025 年2 月に福岡の博多座で千穐楽を終えました。
いま映像を見返すと、新橋演舞場のシュテンは少年っぽく、博多座は大人の男のように感じます。実は博多座の前に『新春浅草歌舞伎』で1 か月間、『絵本太功記』で武智光秀という大きさを見せなくてはいけない役を勤めさせていただいたので、その影響もあったのかなと思いますね。(シネマ歌舞伎になった)新橋演舞場のシュテンは、そのときだけのものだったかなと思っています」
大江山の酒呑童子をモチーフにしたシュテンもまた鬼のひとり
ライは、噓を重ねて成功するごとに力を増していく強靭なキャラクター。そして、そのライを相手に「オーエ国の若き党首」としてスピード感のある立廻りを繰り広げ、知力の限りを尽くして競い合うシュテン。その関係性と緊張感は、クライマックスまで続きます。ライと対等に渡り合うシュテンの存在感を、染五郎さんはどのように作り上げたのでしょうか?
「〝オーエ国のシュテン〟とは、歌舞伎の演目にも登場する、大江山の鬼、酒呑童子がモチーフになっています。だから、作品のタイトルにある“鬼”は、ライだけではなく、実はシュテンやオーエ国の民のことでもあると僕は解釈しています。
シュテンは自分の国に誇りを持っていて、その誇りを汚したもの、裏切ったものに対しては、徹底的に追い詰めて裁きを下し罰を与える冷酷さがあるんです。ライのような成り上がるための所業とは異なる、生まれながらの鬼として、どこか人間とは一線を画す恐ろしさを持っていなくてはいけない。その迫力や役柄としての大きさや格を出せるよう、感情の表現や声のトーン、歩き方を工夫しました。役作りは難しかったですけれど、同時にとても楽しい経験でした」
お気に入りのシーンは、シュテンがシャウトするように放つ、あるセリフを起点として始まる、『リチャード三世』をモチーフとした幻想的な場面。
「『これは私の復讐だ!』と叫ぶ瞬間、いちばん気持ちよかったですね(笑)。これぞ劇団☆新感線と思わせるロックなギターサウンドが流れ、それまでライによって犠牲になった人物が亡霊となって現れてくる。同時に、時代を超えたシェイクスピア劇の普遍性の手応えも感じました」
今作は、幸四郎さんと松也さんがライから役がわりで「サダミツ」というコミカルなキャラクターを演じるのも見どころ。血で血を洗うような展開の合間に笑いを入れ、緩急で観客の心を摑む劇団☆新感線らしい、いのうえひでのりさんの演出です。
「自分も笑いを取りに行くのが好きなんですが、脚本ではシュテンの登場シーンにはそういうところがないんです。唯一トライできそうだなと思ったのが、シュテンがライの弟分キンタをまったく無視する、そんな関係が垣間見える場面。そこで笑いを取る方向で続けていたら、千穐楽の前日に、いのうえさんから『普通にやって』と言われました。稽古の最初の段階でも、『シュテンは真面目に』と言われていたのですが、やっぱり注意された。でも、『あと1日だから』と思って変えずにやりました(笑)」
細かな動きまで決めて作っていくというのが、いのうえひでのりさんの演出スタイルですが、それは逆に工夫をしやすかったと染五郎さん。
「劇団☆新感線やいのうえさんの演出については、いろいろな方から話を聞いていました。自分自身、18年前の公演が大好きで完成された隙のない作品だと思っているのですが、さらに新しい発想を持って、もう一度作り上げるいのうえさんは本当にすごいと思います」




