これまでのシニア層とはセンスも価値観も大きく異なるいまの60代。“新しい大人世代”としてどうありたいか、日々修行中のイラストレーター植草桂子さんのエッセイ。今回は「自分自身を楽しむ」のお話です。
私は美術大学を卒業した後、いきなりフリーランスのイラストレーターになった。40年以上前のことだ。若さと馬鹿さの渦のなか、さほど不安も感じないままどうにかなるような気がしていたから。そして程なくすると雑誌のイラストの仕事をもらえるようになった。そう、時代もよかったのだ。
当時はメールもなく、どんなに小さな仕事でも編集部に出向いて打ち合わせをした。私はいろいろな出版社に行くのが楽しかった。それぞれの雑誌の風情がわかる編集者のファッションを見るのが面白かったのだ。特に女性誌のお姉様方のあか抜けた着こなしはそのときの流行がわかって参考になった。
そんななか、あるファッション誌の50歳を超えているであろう女性編集者に目が釘づけになった。ほかのお姉様方よりずっと上のお年ごろ。白髪を淡いブラウンに染め、グラマラスな体にぴったりとした半袖のセーターと膝丈のタイトスカート、日焼けした素足にパンプスといった出で立ち。DCブランドが流行の最中「私は私!」といった主張が滲み出ている。若い編集者たちはそれを“独特”という表現で語っていたけど、なんだか渾身の迫力を感じた。
その後、日本の雑誌でも海外セレブの「素足でパンプス」が取り上げられて流行り出したっけ。あとで知ったことだが、その件の女性は大正時代の日本画壇の重鎮を祖父にもつ方だった。彼女の自信はそのあたりからきたものか、元気だった日本の強者だったのかわからないけど、堂々と自分のおしゃれを貫き通す潔さがかっこよかったのを覚えている。
いま、若い子をハッとさせる大人の女性って、あまりいない気がする。若々しく見える人は多いけど、はたして本当に自分自身を楽しんでいるのだろうか。活力に満ちた時代を知っている私たち世代こそ、なにかしら若い人に憧れや希望を与えられる存在になれたらいいのに。自信を持って「大人って楽しいものよ」って言ってみたい。
イラスト・文/植草桂子
※素敵なあの人2026年1月号「植草桂子の気分だけでも大人修行 vol.27」より
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