よく「食べてすぐ寝たら牛になる」など言われ、食後すぐ寝るのはよくないと思う人が多くいます。でもそれ、実は間違っているかも!?通説でいわれている健康常識のウソを、南雲吉則先生がズバッと解説してくれます!
目次
- A子さん
「食後すぐに寝ると牛になる」など体に悪いイメージが昔からあるので、いつも眠くなっても寝ないで我慢しています!
- 南雲吉則先生
いいえ、それ実は間違っています!
「食べてすぐ寝ると不健康」という通説に科学的根拠はありません!
―食後すぐに寝るのは太りやすいし、体に悪いと思っていました!
昔から食後すぐに寝るのは健康によくないといわれていますが、実は科学的な根拠はひとつもないんです。よくないと言われている主な理由として挙げられるのは下の5つの理由からです。
【1】胃腸の消化機能が弱まる
【2】エネルギーを消費しないので太る
【3】睡眠が浅くなる
【4】胃酸が逆流する
【5】脳卒中や認知症のリスクを高める
まず【1】の「胃腸の消化機能が弱まる」と【2】の「エネルギーを消費しないので太る」という通説についてですが、「食べてすぐに寝ると胃腸の消化機能が落ちて消化に時間がかかる」といわれています。そのため、「食後3時間程度は起きていましょう」とアドバイスする方もいらっしゃいます。
しかしよく考えてみると、「消化機能が弱まるのであればいくら食べてもすぐ寝れば太らない」と解釈することもできますよね。
また、エネルギーを消費するために「食後は運動をしましょう」という声もありますが、体が重くなる食後に毎回運動をするのは大変です。もし寝る前にガッツリ食べたのであれば、翌日の朝食や昼食を抜いたり軽めにしたりすればいいだけなんです。
―そう言われると気が楽になりますね。でも、それで睡眠の質が悪くなってしまったら困ります。
【3】の「睡眠が浅くなる」とされるのは、食後は胃腸に血流が集まるため脳の血行が悪くなり、脳が休めなくなるといわれているからではないでしょうか。その結果、眠りが浅くなるという考え方です。
でも、夜だけでなく昼食後にも眠くなるという人も多いと思います。睡眠が本当に浅くなるのであれば、食後に眠くなるという事態は起こらないと思います。
ー確かにそうですね!でも、「胃酸が逆流する」は、横になったらまさにそうなりそうな気がします。
【4】の「胃酸が逆流する」は、もっともらしい感じがしますよね。もし食後すぐに寝るなら寝姿勢に注意すべきという人もいます。その方法は人によって異なり、「右を下に」「左を下に」「上体を起こして」といろいろな説があります。
でも、寝方で胃酸の逆流を防ぐというのはちょっと違うのではないかと思っています。というのも、食事のすぐあとに逆立ちしても、胃と食道の境界には逆流防止弁があるため、食べたものが胃から逆流することはありません。ということは、食後にすぐ寝たとしても、胃酸が逆流することにはつながらないですよね。
ー最後の「脳卒中や認知症のリスクが高まる」というのは怖いです……。
【5】の「脳卒中や認知症リスクが高まる」とされる理由は、食後は胃腸に血液が集中し、脳に血流が不足しやすくなるからといわれています。でもこれは脳の専門家で誰もそのようなことは言っておらず、エビデンスもないので都市伝説のようなもの。
むしろ「すぐ寝ちゃいけない!」と無理に起きていると不眠症の原因になって逆に健康を害し、睡眠薬がないと眠れない体になってしまう可能性もあります。
夕食後すぐは、実はいちばん安眠できるタイミングなんです
―では、食後にすぐに寝てしまっても大丈夫なのでしょうか?
食後すぐに寝ることには、いくつかのメリットがあります。まず、食事をすると一時的に血糖値が上がります。そしてその後、血糖値が下がるときがいちばん眠りやすいタイミングです。
また、食後は手足がポカポカすると思いますが、それは体温を下げるために手足から熱を放散しているから。よくお風呂で湯船につかって体温を上げ、その後体温が下がるときに入眠しやすいという話を聞くと思いますが、食後はまさにその状態です。
ただし、昼食後は日中で交感神経が優位な状態のため、あまり熟睡できません。もし眠くなっても横にならず、机の上で5〜10分以内の昼寝に留めておきましょう。それ以上寝てしまうと副交感神経が優位になり、体内時計が狂ってしまいます。
―昼と夜ではまた違うんですね。
はい。夜は副交感神経が優位になっていて、メラトニンという睡眠ホルモンが分泌されています。その状態で血糖値や体温が下がり始めた食後に眠れば、非常に安眠できると思います。
安眠のコツはなるべく早めに布団に入って、できるだけSNSを見ないこと。SNSを見始めると、あっという間に1~2時間が経ってしまい、せっかくの寝る機会を失ってしまいます。
おすすめは紙の書籍などの活字を読むこと。皆さんも経験があると思いますが、今日はここまで読もうと決めていても、活字を読んでいるうちに眠くなってくるはずです。
―本を読むと確かにいつの間にか寝ているかも。やってみます。
夕食後すぐに寝ることにより、まずは体内時計がリセットされます。副交感神経が優位になり、メラトニンの分泌も促されるように。さらに成長ホルモンも出るため、脂肪燃焼や肌が白くなる効果が期待できます。
それだけではありません。脳には、脳内環境を維持し代謝を助ける「グリア細胞」というものがあります。このグリア細胞は、睡眠中に脳から有害物を掃除してくれる役割があります。
アルツハイマー型認知症の原因のひとつに、アミロイドβという脳内で作られるたんぱく質がたまることがあると考えられています。グリア細胞はアミロイドβほか脳内の沈殿物を掃除してくれ、認知用予防が期待できるとされています。
夕食時や食後はアルコール&カフェインをとるのは避けましょう
―食べてすぐ寝ることはいいことづくめですね!
食後に眠くなるのは動物の生理的欲求。眠くなったタイミングを逃さずにねれば不眠症にもならず、うつや引きこもりの予防も期待できます。
こんなにいいことづくめで、むしろ食後すぐに寝てはダメという科学的根拠はありません。
―なにか注意するべきことはありますか?
夜はつい、お酒を飲むこともありますよね。また、眠れないときは、アルコールを飲んでその力で熟睡しようとする人もいます。アルコールは興奮性の物質なので、少量なら大丈夫ですが、深酔いするほど飲むと眠りは浅くなり、夜中に何度も目が覚めてしまいます。質のよい睡眠にならないので、ほどほどにしておきましょう。
あとは、カフェインのとり過ぎにも注意しましょう。トイレが近くなってしまうので、安眠を妨げてしまいます。夕方は飲まない方がいいですね。
ー夕食後はカフェインレスの飲み物を飲むよう気をつけます。
そうですね、夕食時や食後は、アルコールやカフェインが入っていない飲み物を選ぶのがいいですね。お好みのものを選ぶといいと思いますが、私は普段からごぼう茶を飲んでいます。食物繊維も豊富なので、腸内環境も整うのでおすすめですよ。
結論!夕食後は最高の入眠タイミング!むしろ寝ることで健康効果も!
- A子さん
夕食後は無理せず、寝るようにします。
- 南雲吉則先生
タイミングよく寝ることで、質のよい睡眠がとれ、認知症予防も。むしろ眠って、健康寿命を延ばしましょう!
撮影/山辺恵美子(人物) 文/酒井明子