各界の目利きが注目する器やアート、暮らしの道具を紹介。今回は、漆で仕上げた陶胎漆器について、「うつわ楓 」島田洋子さんに教えていただきました。
漆の衣をまとった上田浩一さんの陶胎漆器
漆がもたらす機能美に脱帽主役にも脇役にもなる器
「私自身は料理を盛る云々以前に、器に触れているだけで落ち着くというか、手の中でいいなぁと眺める時間が好きなんです」と笑う島田洋子さん。器好きが高じて、店を開いて四半世紀。使い勝手がよくコーディネートしやすい、使う人にやさしい器揃えに定評があり、スタイリストなどプロの信頼も厚い目利きです。
そんな島田さんが「常々、取材の機会をいただいたら、紹介したかった作家のひとり」というのが、陶芸家・上田浩一さん。多彩な技法の使い手で、なかでも陶胎漆器の作品に「ひと目惚れ」してしまったそう。
陶胎漆器とは陶磁器の素地に漆を塗り、低温で焼きつけた器のこと。その歴史は古く縄文時代にまで遡るといわれます。上田さんの陶胎漆器は本焼きした陶器に漆を塗りつけ布で拭き取ったり、ペインティングナイフで引っ搔いたり、削ったり。
「納得のいく質感になるまで塗っては焼きを繰り返し、途方もない時間と労力で作られています。シンプルながら趣があり、板皿なんてまるで抽象絵画のよう。オブジェのように壁に飾る方もいらっしゃいます。それでいて料理や果物、お菓子などなにをのせても似合うし、引き立つ。脇役としての実力も確かです」
素材が土ゆえ、木製の漆器では不可能な形が作れるのも魅力。「特に上田さんの作るポットや急須は、サイズから持ち手と注ぎ口の角度、蓋の収まりまで文句のつけどころがありません。そもそも水切れのいい形のうえに漆が水を弾くので、お茶を淹れるたびに惚れぼれするようなキレのよさ」と島田さん。汚れがつきにくく、落としやすいのも美点です。
器は暮らしのなかでこそ生きるもの。島田さんの目利きの先には常に心地よい日々があり、上田さんの作品もその風景のなかにありました。
上田さんの物作りの「軸」という急須。機能美と愛嬌を大切にしているそうで、茶壺(ちゃふう)と呼ばれる中国茶用の急須もどことなくユーモラス。胴径7×H6.5㎝ 16,390円。盃にも使える茶杯は各φ7×H5.5㎝ 4,730円。板皿W41×D13×H1.5㎝ 18,700円。背面にフック用の穴があり、壁に飾ることもできます。(φ=直径、W=幅、D=奥行き、H=高さ)




