各界の目利きが注目する器やアート、暮らしの道具を紹介。今回は、金彩を施したクリアガラスのオブジェについて、tsudoi 店主 松井美緒さんに教えていただきました。
金彩を閉じ込めた時澤真美さんのガラスオブジェ
個展は年に2〜3回 そのきらめきは一期一会
鎌倉から江ノ電に揺られて稲村ヶ崎へ。潮の香りが漂う路地の奥に「tsudoi」はあります。築100年余りの古民家を生かした店には店主・松井美緒さんが選んだ日用品がずらり。軒に吊るした風鈴が「ちりん」と心地よい音を奏でます。この風鈴こそ、松井さんが「今回、ぜひ紹介したい」というガラス作家・時澤真美さんの作品です。
丸みのあるやさしい音色、たゆたう水のようなガラスの質感、金彩によるウイットに富んだ絵柄などなど、どこを取っても素敵。「個展を開くと瞬く間にお嫁に行ってしまう」というのも納得です。琵琶湖を有す滋賀県に工房を構え、水辺の風景にインスパイアされた作品は「カットがとにかく丁寧できれい」と松井さん。金彩をまとったガラスに、庭の景色が映り込む様を見ていると時間を忘れてしまうそう。
「一輪挿しやペーパーウェイトは手のひらに収まるサイズも可愛くて、個展のたびに買い足される方が多いですね。かくいう私もインスタグラムでひと目惚れして以来、少しずつコレクションしています」
その魅力の裏には膨大な仕事量と、それらを一切の妥協なくまっとうする時澤さんの矜持があります。一般的な吹きガラスは溶かしたガラスを竿に取って息を吹き込み、成形して完成しますが、時澤さんの場合はそこからが勝負。ガラスが冷めてから研磨機で、さらにイメージする形に削り出します。その後、サンドブラストで模様を彫り、彫った部分に金彩を焼きつけてようやく完成するのです。
「大変な手間と時間がかかるので、個展の準備期間は約半年。年に2〜3回の開催がやっと、といいます。素敵な一期一会を大切にしたい作品のひとつです」
器も人気の時澤さんですが、いまは風鈴をはじめオブジェ的な作品に力を入れているそう。風が吹くたびツィーッとツバメが飛び交う風鈴「ツバメ」はφ8×H8.5cm 8,800円(φ=径、W=幅、D=奥行き、H=高さ)。吊り糸は京都の糸屋のもの、短冊にはネパールの紙を使用。モチーフとの組み合わせを楽しみながら、付属品まで時澤さんが手作りしています。「そういう細やかな仕事がまた、女心をくすぐります」と松井さん。
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