これまでのシニア層とはセンスも価値観も大きく異なるいまの60代。“新しい大人世代”としてどうありたいか、日々修行中のイラストレーター植草桂子さんのエッセイ。今回は「お月見」のお話です。
犬と散歩する傍ら、道端の植物で季節の移り変わりを楽しむ。温暖化で心地よい秋風が吹く日が少なくなってしまったけど、それでも紅葉してきた葉っぱや実が成りはじめた草木にちゃんと秋は来るのだなとほっとする。
道端の雑草を摘んだりして、犬に迷惑をかけながら散歩する。小学生のころの下校時と気分はなんら変わらない。散歩ルートなら、どこにどんな植物があるかをだいたい覚えている。
昨年9月のこと、密かに剪定鋏まで持って散歩に出かけた。その日は中秋月。ススキを採取するための、お散歩という名の花泥棒。わが家のまわりは住宅地でなかなか雑草化したススキが見当たらない。あらかじめ自生している箇所をチェックしておいた。さすがにススキは茎がかたくて手摘みというわけにいかないので、チョキチョキする必要がある。
さてその場所に到着すると、まったく同じことを考えた先着の人がいて、互いに手にした鋏を見合わせて笑ってしまった。住宅地の一角、たった一株のススキの前のおかしくも妙な光景。ところが今年、そのススキが枯れてしまったのだ。
今年の中秋の名月は10月6日。それまでに新たなススキポイントを探さなければ。ススキごときで暇人だなとも思う(思うでしょ?)。でも年を重ねるにつれ、暮らしを大切にしたい気持ちも増していく。
イラスト・文/植草桂子
※素敵なあの人2025年10月号「植草桂子の気分だけでも大人修行 vol.24」より
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