各界の目利きが注目する器やアート、暮らしの道具を紹介。今回は、中国の古陶を思わせる器について、暮らしのうつわ 花田 店主 松井英輔さんに教えていただきました。
シルクロードの記憶を宿す松本郁美さんの異国情緒溢れる器
いま注目してほしい作家、ナンバーワンです
1977年の創業以来、300人もの作家とともに「食卓を豊かにする器」を送り出している「暮らしのうつわ 花田」。店主の松井英輔さんが「今後、ますます目の離せない作家です」と推すのが、陶芸家の松本郁美さんです。
中国の古い陶磁器やシルクロードの折衷文化に影響されているという作品は、和でも洋でもないエキゾチシズムが魅力。その昔、中国とヨーロッパを結ぶ交易路で行き交ったのは、こんな器ではなかったかと想像がふくらみます。
「形、質感、豊かな色彩など見どころが多いのですが、なかでも松本さん独自の〝搔き落とし〟技法による絵つけが素晴らしい。絵の具を混ぜた化粧土で柄を描き、針のような道具で削ってはまた塗って……と色を重ねることで、油絵のように重層的で深みのある絵に仕上げています。しかも柄が周囲になじみ過ぎないように、2種類の釉薬を掛け分けるという凝りよう。効率度外視で完璧を目指したものだけに宿る美しさ、心地よい緊張感を感じます。豊かな発想によるフォルムも特別感があり、一器多用の日々の器とは違った魅力がある。手元に置きたい! と所有欲に駆られる作品です」
今春、5年ぶりに中国を訪れた松本さん。シルクロードを辿りながら数々の仏教遺跡を巡ったそう。
「古の壁画や仏像の生命力を肌で感じ、やりたいこと、今後やるべきことが確信できたのではないでしょうか。気力・体力ともに充実の時期を迎え、これからが本当に楽しみ。8月の個展では、ぜひプレビューで全作品をご覧ください。茶器や個性的な器の数々に囲まれ、彼女の世界観に浸っていただきたい」と松井さん。
きっと東京にいながら、遠い異国を旅した旅した気分になれるはず。
上の写真の中国茶器はすべて松本さんの新作。シルクロードの旅に持参し、行く先々でお茶を楽しんだそう。「日本の茶道に比べて自由度の高い中国茶が性に合っているようで使うのも、作るのも楽しいそうです。茶器は8月の個展にも並ぶと思います」と松井さん。右から茶壺W10.5×D8×H8㎝、蓋碗(がいわん)φ8.5×H6.5㎝、茶海φ9.5×H7㎝、茶杯各φ5.5×H3㎝(φ=直径、W=幅、D=奥行き、H=高さ)
形、柄、色彩……見どころの多い仕事に所有欲がかき立てられます
大人気の「白磁搔き落とし三重箱」。農作業に勤しむ人々が生き生きと描かれ、内側にひっそりと咲く花模様も愛らしい。お菓子や惣菜はもちろん、アクセサリーなどを入れても素敵です。φ11.5×H10㎝ 22,000円。
「貫入灰釉(かんにゅうはいゆう)茶入れ壺(鹿)」。いまにも走り出しそうな鹿は、鉄分を含む顔料を用いた「鉄絵」の手法で描かれています。オリエンタルでどこか神秘的な雰囲気に釘づけ。胴径11.8×H11.8㎝ 66,000円。
サムネイル写真の茶海。図案の部分にはマットな質感の釉薬を、地にはツヤのある釉薬を掛け、柄が引き立つ工夫がされています。中国の民窯(庶民のための器を焼く窯場)のひとつ、磁州窯(じしゅうよう)に倣ったおおらかな佇まいも好印象。
松本さんが撮影した仏教遺跡の壁画。チベット仏教と漢族の仏教が重なる作風に目を奪われたとか。
松本郁美さん/1978年生まれ。成安造形大学環境デザイン科で建築を学んだ後、信楽焼と出合い陶芸の道へ。京都府立陶工高等技術専門校、中国の景徳鎮陶瓷大学などで学び、2018年滋賀県に開窯。
【SHOP DATA】暮らしのうつわ 花田
東京・九段。皇居を背に建つ店では常に150〜180名の作家の作品を取り扱っています。さらに2階のギャラリーでは、年に40回以上の展覧会を開催。いつ訪れてもお気に入りが見つかる器の宝庫です。
2025年8月20日(水)〜25日(月)「暮らしのうつわ花田」で個展を開催予定。
20日(水)のWEB公開、21日(木)の店舗プレビューではすべての作品が鑑賞できます。
東京都千代田区九段南2-2-5
03-3262-0669
営業時間/平日12:00〜18:00
(土日祝は17:00まで)
火曜・水曜休
https://www.utsuwa-hanada.jp
撮影/松村隆史 構成・文/早川ちかこ
※素敵なあの人2025年9月号「目利きの目線 第25回」より
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