これまでのシニア層とはセンスも価値観も大きく異なるいまの60代。“新しい大人世代”としてどうありたいか、日々修行中のイラストレーター植草桂子さんのエッセイ。今回は「カフェで過ごすひとり時間」のお話です。
いろいろな用事を詰め込んだ日、出先でちょっと休憩するためにカフェに入った。ゆっくりくつろげるカフェは根っこが生えてしまうので、ファストフード店のカフェへ。
平日の昼さがり、客層はいろいろ。パソコンで仕事する人、勉強する学生、おやつ時間の親子……など。人の縮図が見える。おしゃれなカフェでは見られない光景が面白い。
私の斜め向かいのテーブル席にいる20歳前後の女の子は学生かな。細身な体に着古したトレーナーとベルボトムのダメージデニム。もうとっくにコーヒーカップは空っぽ。けだるそうに頰杖をついている姿に若さの裏にある陰見え隠れして眩しい。なんか若いころのジェーン・バーキンを思い出した。
カウンター席には70代と思われるご夫婦の後ろ姿が見える。買い物途中で一休みといったところ。コーヒーを飲みながらひとつのアップルパイを分け合っている。ご主人のほうがアップルパイをひと口、口にしたところでルンルンと頭を振った。おいしかったのね。子どものようなちゃめっけが可愛い。奥さまの方は特に反応なしだが、リラックスしているのに背すじが伸びていて格好いい。会話こそ聞こえないが、途切れることのない話に仲睦まじさが感じられる。
気づくと疲れていた私は、素敵な短編映画を見た後のような気分になっていた。携帯を眺めるよりも面白い時間を過ごせた。
ただ残念なのは、私ぐらいの年齢層のひとり客がいないこと。同世代の女性はひとりで飲食店にあまり入らないのかな。
次は目的なしにひとりカフェで人間観察も面白いかもしれない。小さい楽しみがまたひとつ増えた。
イラスト・文/植草桂子
※素敵なあの人2025年7月号「植草桂子の気分だけでも大人修行 vol.21」より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
この記事のキーワード