これまでのシニア層とはセンスも価値観も大きく異なるいまの60代。“新しい大人世代”としてどうありたいか、日々修行中のイラストレーター植草桂子さんのエッセイ。今回は「素敵なピクニック」のお話です。
先日、納戸の整理をしながら、使いもせず捨てられなかったものをまた見つけてしまった。私の世界はいらないものに溢れている。
30年近く前にいただいたピクニックセット。籐のバスケットにカップやお皿、お弁当を入れるプラスチック容器に可愛いカトラリーがすべて2セットずつ入っている。実にラブリーなお品。チェックのクロスなんかにこの英国風のピクニックセットを広げれば、それはもう“ふたりの素敵な休日”スタイル。当時の海外雑貨ブームが偲ばれる。しかし実際にこのピクニックセットを日本のどこかで広げるのは、素敵が行き過ぎてちょっと恥ずかしかった。
いまになって、私も年齢を重ねて照れがなくなったし、こんな凝ったピクニックもいいかもしれないと、使うことにした。ところが、経年劣化したプラスチック容器は、洗っているうちに無惨にも手の中でバリバリと割れてしまった。やはり素敵な外国スタイルのピクニックとは無縁だったようだ。
近ごろは休日だからと意気込んで夫婦で出かけることも少なくなった。私たち夫婦の関係も経年劣化している。コロナ禍以来、外食もすっかり減った。休日の朝食はテレビを見ながらのブランチだ。はっきり言って、つまらない。
そうだ。次の休日、朝の空気が気持ちよかったら近くの公園でブランチをしよう。犬も連れてのピクニックだ。近くのパン屋さんでサンドイッチを買えばいい。コーヒーだけは淹れていこう。飲みかけのワインも持って行っちゃおうかな。素敵でもなんでもない、ただ心地よいだけのピクニックだ。気がつけば、私の世界はまだしたいコトで溢れていた。
イラスト・文/植草桂子
※素敵なあの人2025年5月号「植草桂子の気分だけでも大人修行 vol.19」より
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