菅田将暉さん主演の映画『サンセット・サンライズ』が1月17日(金)より全国公開! 東北の三陸地方を舞台にした原作小説を、宮藤官九郎脚本、岸善幸監督という東北出身同士のタッグで映画化。コロナ期にリモートワークになった都会のサラリーマンが、釣り好きが高じて南三陸の海沿いの街に移住したことから巻き起こる人間模様が描かれた、笑って泣けるヒューマンドラマになっています。
地方の過疎と高齢化による空き家問題や若者の非婚化、東日本大震災のその後といった社会的な内容も盛り込まれており、単なるエンタメ作品にとどまりません。一方で三陸の海の幸、山の幸がたくさん登場し、地元でしか食べられないような郷土料理に興味をそそられるグルメ映画としても楽しめます。この記事では「映画ごはん研究家」の富田夏子が作品の見どころとともに、食べ物の登場シーンにも注目したコラムとして紹介します。
ここが見どころ
【1】憧れの移住生活とその後を描いた「今だからこそ」の作品
主人公の晋作(菅田将暉)は、東京の大企業に勤める釣り好きのサラリーマン。コロナによるリモートワークを機に移住を思い立ち、三陸地方に4LDK・家賃6万円の好物件を発見します。海が目の前で、大好きな釣りが楽しめるとあって大喜びの晋作ですが、大家の百香(井上真央)は都会からの<よそ者>移住者に大慌て。クセのある住民たちの対応に戸惑いながらも持ち前の明るさで地域に溶け込んでいく晋作でしたが、その先には思いがけない人生が待ち受けていて……というストーリー。
前半は、コロナ期に突然東京からやってきた男に戸惑う住民の様子がユーモラスに描かれています。過剰なまでに消毒とディスタンスに明け暮れていたあの頃の、都会と地方の温度差。たった2~3年前のことなのにコントのように見えてしまうほど安全な暮らしに慣れている自分に驚くのでは?
コメディとして笑って観ているうちに、浮かび上がってくる地方の問題と震災の爪痕。エンタメを通してそれぞれの立場で「地方創生」を考える機会となる、今だからこそ上映される意味を感じる作品です。
【2】「こういう人いるよね」 “地元感”あふれるキャスティング
晋作が移住する“宇田濱町”(三陸を舞台にした架空の町)の住民は、全員キャラが濃いめ。井上真央さん演じる百香の応援団「モモちゃんの幸せを祈る会」メンバー役の三宅健さん、竹原ピストルさん、山本浩司さん、好井まさおさんの4人は、<よそ者>晋作に敵意むき出しながら、心根の優しさは隠せない絶妙な演技。特に金髪でニッカポッカ姿の三宅健さんは、キラキラしたアーティストオーラを完全に隠した“田舎のあんちゃん”そのものでした。
百香の職場の同僚役・池脇千鶴さんも最初はご本人とは気がつかないくらい、町役場勤めの疲れた主婦感が満載でしたが、百香の父役・中村雅俊さんの漁師姿は群を抜いてサマになっています。宮城県出身なだけあって、東北弁もちょっと聞き取れないくらい流暢。肌着やジャージ姿で頭にタオルを巻いて家にいる姿は、どことなく志村けんさんを彷彿とさせるような風貌です。中村さんは歌声も披露されていますのでお楽しみに。
【3】「“泣き笑い”と“笑い泣き”の間を行ったり来たり」
「(監督の)岸さんは『泣き笑い』で、(脚本の)宮藤さんは『笑い泣き』みたいな。撮影中はその間を行ったり来たりする感覚でした」というのは、主演の菅田将暉さんの言葉(パンフレットより)。まさにこの形容がぴったりで、笑って泣けて、泣けて笑える、その振り幅が絶妙な映画になっています。